
肥満症治療について
肥満とは、体に脂肪がたまりすぎた状態のことです。BMIが高いと「太っている」と判断されますが、必ずしも健康に問題があるわけではありません。
一方、肥満症は、肥満によって糖尿病や高血圧症、脂質異常症などの病気が起きている状態で、医学的に体重調整が必要とされます。
当クリニックは国の基準に基づく肥満症治療に係る施設基準適合医療機関です。当クリニックでは健康寿命を守り合併症を予防することを目的に、生活習慣改善支援を十分に行ったうえで保険診療内での肥満症治療薬(ウゴービ®・ゼップバウンド®)の処方も組み合わせた治療を行っています。
肥満症に伴いやすい疾患・合併症
放っておくと多くの生活習慣病や心血管系疾患などを引き起こします
1. 生活習慣病関連
- 高血圧症:血圧が高くなることで、心筋梗塞や脳卒中のリスクが上昇
- 2型糖尿病:インスリン抵抗性が強くなり血糖が上がりやすくなる
- 脂質異常症(高脂血症):LDLコレステロール上昇、HDLコレステロール低下、トリグリセリド上昇で動脈硬化が起こる
- 高尿酸血症/痛風:尿酸値が高くなり、関節痛や腎障害を引き起こす原因になる
2. 心血管系疾患
- 虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞)
- 心不全
- 不整脈(特に心房細動)
3. 呼吸器系疾患
- 睡眠時無呼吸症候群:いびきや呼吸停止により睡眠の質が低下、心血管リスクも増加
- 喘息の悪化
4. 消化器系疾患
- 脂肪肝(非アルコール性脂肪性肝疾患:NAFLD=最近ではMAFLDと呼ばれます)
- 肝炎や肝硬変への進行リスク
- 胆石症
5. 内分泌・代謝疾患
- 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS):女性で不妊や生理異常の原因になる
- インスリン抵抗性症候群(代謝症候群)
6. 筋骨格系・関節障害(ロコモティブシンドローム)
- 変形性膝関節症
- 腰痛・腰椎障害
- 関節炎や運動機能低下
7. 泌尿器・腎臓系
- 慢性腎臓病(CKD):将来透析のリスク増加
- 尿路結石
8. その他
- 胆道系疾患(胆嚢ポリープ・胆石)
- 妊娠合併症(妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病)
- がんリスクの上昇:子宮体がん、乳がん、大腸がん、食道がんなど
保険診療で使用できる肥満症治療薬について
これまで肥満症に対しては生活習慣の改善と低カロリー食、運動療法が中心でしたが、現在は糖尿病治療薬として開発された注射薬の一部が、適用条件を満たす場合に限りますが、「肥満症治療」としても保険診療で使えるようになっています。持続性GLP-1受容体作動薬(セマグルチド)や持続性GIP/GLP-1受容体作動薬(チルゼパチド)と呼ばれる比較的新しいタイプの注射薬で、食欲を抑え、体重減少を助ける作用があります。
同じ成分でも「糖尿病治療薬」と「肥満症治療薬」とでは商品名が異なります
- セマグルチド(持続性GLP-1受容体作動薬)
-
- 2型糖尿病治療薬として:オゼンピック®
- 肥満症治療薬として:ウゴービ®
- チルゼパチド(持続性GIP/GLP-1受容体作動薬)
-
- 2型糖尿病治療薬として:マンジャロ®
- 肥満症治療薬として:ゼップバウンド®
注射の仕方
ウゴービ®もゼップバウンド®も、週に1回、自分でお腹や太ももに打つ注射薬です。
どちらもペン型で、複雑な操作はなく、針もほとんど見えないので安心して使えます。
違いは、薬の中身(成分)が異なるだけで、注射のやり方はとてもよく似ています。
薬剤の特徴
肥満症の治療に用いられるウゴービ®(セマグルチド)とゼップバウンド®(チルゼパチド)は、どちらも脳や胃に働きかけて食欲を抑え、体重を減らす薬ですが、その作用には多少の違いがあります。
| 薬剤名 | ウゴービ® (セマグルチド) | ゼップバウンド® (チルゼパチド) |
|---|---|---|
| 特徴 | ・主にGLP-1受容体に作用します。 ・食欲を抑え、満腹感を高め、空腹感を減らすことで体重を減らします。食べ物の好みも変化し、自然にカロリー摂取量が減る効果があります。 ・2022年3月に日本で肥満症治療薬として承認されました。 | ・GLP-1受容体だけでなく、GIP受容体にも同時に作用します。 ・GLP-1の作用に加え、GIP受容体を介して代謝改善やインスリン分泌の調整も期待できるため、より強力な体重減少効果が期待されます。 ・2025年4月に日本で肥満症治療薬として承認されました。 |
| 共通点 | ・週に1回の皮下注射で使える ・脳の食欲中枢に作用し、自然と食事量を減らす ・胃の動きをゆっくりにして満腹感を早く得られる | |
| 副作用 | ・吐き気、嘔吐、下痢、便秘、腹部の張り ・食欲減退 ・注射部位の反応:赤みや軽い腫れ、かゆみが出ることがあります。 ・低血糖:一部の糖尿病治療薬(SU薬やインスリンなど)と併用している場合に注意が必要です | |
用量調整の方法
ウゴービ®の場合
注射製剤の用量は5段階あり、胃腸障害の発現を軽減するために4週間隔で16週間かけて、段階的に増量していきます。なお、この注射製剤は68週で完了します。

ゼップバウンド®の場合
注射製剤の用量は6段階あり、胃腸障害の発現を軽減するために4週間隔で20週間かけて、段階的に増量していきます。なお、この注射製剤は72週で完了します。

※患者さんの病態に応じて4週間以上の間隔2.5mgずつ週1回15mgまで増量できます
保険診療で使える適用条件
肥満症治療薬はすべての人に使えるわけではなく、国が定めた厳しい要件を満たす必要があります。
主な適用条件は以下のとおりです。
1. 患者要件
- ①BMIが35kg/m²以上であり、糖尿病、高血圧症、脂質異常症のいずれかに対し、薬物治療を行っている人
- ②BMIが27~35kg/m²未満の場合は、糖尿病、高血圧症、脂質異常症のいずれかに対し、薬物治療を行っており、かつ、肥満に関連する健康障害※を2つ以上有する人
※健康障害:耐糖能異常(2型糖尿病・耐糖能異常など)、脂質異常症、高血圧、高尿酸血症・痛風、冠動脈疾患(狭心症・心筋梗塞)、脳梗塞、非アルコール性脂肪性肝疾患、月経異常・不妊、閉塞性睡眠時無呼吸症候群・肥満低換気症候群、運動器疾患(変形性膝関節症など)、肥満関連腎臓病 - ③ ①か②の要件を満たし、肥満治療の基本である食事療法・運動療法や生活習慣の改善などを6か月以上行っても十分な減量が得られない場合で、薬物症治療の対象として適切に判断された人
2. 施設要件
- すべての医療機関で使えるわけではありません。当クリニックは糖尿病学会認定施設であり、国の基準に基づく肥満症治療に係る施設基準適合医療機関です。国の示すルールに従って保険診療での処方が可能です。
3. 医師要件
肥満症治療の深い専門知識と臨床経験が豊富な医師による処方に限られること
4. その他
他の病気や状況による制限
- 妊娠中・授乳中の場合には使えません。
- 重い膵炎の既往や特定の甲状腺疾患のある人では使用できない場合があります。
- 18歳未満も対象外です。
治療の流れ(体重調整プログラム)
肥満症治療の基本は食事と運動です。当クリニックでは患者さん一人ひとりに合わせた、安全で効果的な体重調整プログラムを提案し、医師や看護師のほか、管理栄養士や理学療法士が治療をサポートします。

この体重調整プログラムに参加するかどうか、ご本人の意思を確認します。参加希望の場合には治療計画を立てます。
実際に投与できるのは、体重調整プログラム開始から7か月目からです。
- 準備期間には、高血圧症・脂質異常症・2型糖尿病などについて必要な検査や治療を行い、疾患のコントロールを図ります。そのうえで、適切な食事療法や運動療法といった生活療法を6か月以上継続し、減量を目指します。
- 栄養相談では、食事記録や毎日の体重測定を活用し、管理栄養士とともに食生活を見直します。これにより、よりよい生活習慣へとつながる行動を起こすきっかけづくりをサポートします。
- 運動療法では、からだと運動の専門家である理学療法士が、生活スタイルに合わせた無理のない運動指導を行い、継続できる運動習慣を支援します。
- それでもなお十分な効果が得られないと医師が判断した場合に注射製剤の導入を検討します。
「生活療法集中ステージ」のプログラム
| 医師の診察・定期検査 (採血・体重測定・血圧測定など) | 管理栄養士による栄養相談 | 理学療法士による運動療法 |
|---|---|---|
| 原則1か月ごと | 2か月ごと | 原則1か月ごと |
生活改善集中期間を経てもなお、減量目標が達成できなかった場合、適用基準に当てはまれば保険診療で肥満症治療薬を処方します。この判断は医師が行います。注射投与期間は毎月の診療で胃腸障害(下痢、便秘、嘔気、嘔吐など)を確認しながら、段階的に注射製剤を増量していきます。それと同時に適切な食事療法・運動療法といった生活療法は続けていき、減量を目指します。
「強化療法ステージ」のプログラム
| 医師の診察・定期検査 (採血・体重測定・血圧測定など) | 管理栄養士による栄養相談 | 理学療法士による運動療法 |
|---|---|---|
| 原則1か月ごと | 2か月ごと | 原則1か月ごと |
※つまり、「強化療法ステージ」に入っても注射投与以外は同じプログラムで進めていきます。
必ずお読みください
万が一、生活改善集中期間や注射投与期間に毎月の診察と定期検査および2か月ごとの栄養相談が計画通り行えない場合は、規定により体重調整プログラムを中止しなければなりません。注射投与を再開するためには、受診したのち体重調整プログラムの「生活療法集中ステージ」(生活改善集中期間)から始めていただく必要があります。
注射を3~4か月投与しても、減量傾向が認めらない場合には、注射投与を中止します。また、3~4か月投与して減量効果が認められても、その後の効果が不十分であると医師が判断した場合には、注射投与の中止を検討する場合があります。
注射投与が完了してからも、リバウンド防止、健康状態の維持・増進のために診察と定期検査、栄養相談、運動療法を継続していきます。
まとめ
セマグルチドやチルゼパチドは「痩せる注射」として注目されていますが、誰でも気軽に使える薬ではなく、医療保険で使用するには国の厳しい基準を守る必要があります。当クリニックでは必要な検査と生活習慣改善への支援を行ったうえで、要件を満たす人に対して安全に薬物治療を提供するようにしています。
当クリニックは肥満症治療に係る施設基準適合医療機関として、また、日本肥満学会の評議員や肥満治療に造詣の深い医師たちが診療しています。
「肥満症で悩んでいる」「生活習慣の改善を頑張ってもなかなか効果が出ない」という人は、まず一度ご相談ください。


